対象期間:2025年5月25日〜2026年5月25日
対象:経産省・資源エネルギー庁・電力・ガス取引監視等委員会の公表資料から、電力分野に関係する主要会合を抽出
1. 全体像:電力政策は「自由化の次」へ移行中
直近1年の議論は、単なる電力自由化の継続ではなく、自由化後に顕在化した不安定さを、安定供給・脱炭素・需要増加に対応できる制度へ再設計する段階に入っています。中心になっているのは、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会で、同小委員会は2025年9月以降も継続開催され、2026年3月に「次世代の電力システム構築へ向けて~中間整理~」を公表し、2026年5月20日にも第6回を開催しています。(経済産業省)
結論から見ると、検討の主軸は次の5本です。
供給力確保:容量市場、予備電源、長期脱炭素電源オークション、燃料確保、短期供給力対策
系統整備:地域間連系線、地内系統、データセンター等の大規模需要接続、系統用蓄電池
市場制度再設計:同時市場、需給調整市場、非化石価値取引、小売事業者のkWh確保義務
再エネ主力電源化:FIP移行、出力制御、地域共生、洋上風力、系統アクセス
発電ポートフォリオ再構築:原子力の既設炉活用、次世代革新炉、火力脱炭素化、LNG確保
2. 主要な審議会・研究会別の検討状況
A. 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会
位置づけ:電力を含むエネルギー政策全体の上位会議
直近1年では、第69回が2025年6月2日、第70回が2025年12月25日に開催されています。第70回では「次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会の検討状況」が資料化されており、電力制度見直しがエネルギー政策全体の主要論点として扱われています。(エネーチョウ)
ここでの役割は、個別制度の詳細設計ではなく、GX、電力需要増、燃料安全保障、再エネ拡大、原子力活用などを統合して、電力政策全体の方向を確認することです。電力分野の実務的な制度設計は、後述する各小委員会・WGへ下ろされています。
B. 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会
議論の場:総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会
位置づけ:直近1年の電力制度改革の中核
この小委員会は、2026年3月に「次世代の電力システム構築へ向けて~中間整理~」を公表し、電力システム改革後の次段階として、供給力、系統、市場、小売、産業構造を一体で見直す方向を示しています。中間整理の概要では、GX・DXの進展により電力需要増が見込まれる中、安定供給、脱炭素化、安定的な価格水準での電気提供を実現するため、制度整備と電力産業のあり方を一体的に進めるとされています。
第6回、2026年5月20日には、中東情勢等を踏まえた電力安定供給、2026年度夏季の電力需給対策、分散型エネルギー推進戦略WGでの議論、第3次無電柱化推進計画が扱われました。つまり、中間整理で方向性を出した後、足元の需給対策と制度実装に移っている段階です。(経済産業省)
この小委員会の検討は、ITQ的に見ると「自由化した市場を、再び物理制約・供給責任・投資回収・安全保障の側から組み直す」動きです。
C. 電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ
議論の場:次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会/電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG
位置づけ:中間整理の制度設計を詰めたWG
このWGは、2025年6月13日の第1回から2026年3月17日の第10回まで集中的に開催され、2026年3月23日に「とりまとめ」を公表しています。(経済産業省)
主要論点は、LNG調達・需給リスクの把握、供給力確保、地内系統整備、大規模系統整備の資金調達、同時市場、小売電気事業者のkWh供給能力確保、中長期取引、経過措置料金、電源・系統投資ファイナンスです。とりまとめでは、2030年代初頭にかけて高需要期の電力需給が厳しくなる可能性を明記し、容量市場や予備電源制度、短期追加供給力調達のあり方を含めた制度改善が必要とされています。
特に重要なのは、小売電気事業者に対して、2030年度の供給計画から量的な供給力、つまりkWhの確保を求める方向が示されたことです。具体的には、実需給3年前に想定需要の一定割合、実需給1年前にさらに高い割合を確保する案が示されています。
D. 電力安定供給ワーキンググループ
議論の場:次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会/電力安定供給WG
位置づけ:足元および中長期の供給力確保を扱う新しい実務WG
電力安定供給WGは、2026年5月13日に第1回が開催されています。議題は、今後の供給力確保、予備電源、長期脱炭素電源オークション、需給調整市場、非化石価値取引です。(経済産業省)
これは、制度設計WGで整理された「供給力不足リスク」を、より実務的な供給力確保策へ落とし込む場と見られます。容量市場だけでなく、予備電源、長期脱炭素電源オークション、需給調整市場、非化石価値取引まで一体で扱っている点から、kW、kWh、ΔkW、非化石価値を横断して安定供給を確保する設計へ進んでいます。
E. 制度検討作業部会
議論の場:次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会/制度検討作業部会
位置づけ:容量市場・長期脱炭素電源オークション・需給調整市場などの継続的制度設計
制度検討作業部会は、対象期間内に非常に高頻度で開催されており、2026年5月8日の第114回まで確認できます。また、2026年5月1日には第二十四次中間とりまとめが公表されています。(経済産業省)
2026年4月3日の第113回では、長期脱炭素電源オークション、非化石価値取引、容量市場、予備電源、短期供給力確保策が扱われています。(経済産業省) 2026年1月23日の第110回では、容量市場メインオークション、需給調整市場、非化石価値取引、間接送電権、ベースロード市場が議論されています。(経済産業省)
つまり、この作業部会は、電力市場制度の「運用しながらの改修」を担う場です。価格形成、供給力、脱炭素電源投資、非化石価値、調整力を実制度として回すための調整が続いています。
F. 同時市場の在り方等に関する検討会
議論の場:エネルギー・環境/同時市場の在り方等に関する検討会
位置づけ:将来の卸電力市場・需給調整市場を統合的に再設計する検討会
同時市場の在り方等に関する検討会は、2025年10月15日に第二次中間取りまとめを公表し、2026年2月27日、3月26日、4月20日にも第21回〜第23回を開催しています。(経済産業省)
同時市場は、電力kWhと調整力ΔkWを同時に取引・約定させる市場として検討されています。制度設計WGのとりまとめでも、同時市場の意義は、電力と調整力の安定的・効率的な調達、電源の費用特性を考慮した約定、将来の環境変化に対応できる需給運用の構築にあると整理されています。
2026年4月20日の第23回では、電源起動・出力配分ロジックの技術検証、同時市場に関する今後の検討事項が扱われています。(経済産業省) これは、制度論から実装可能性・システム要件の検証へ移行している段階です。
G. 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会
議論の場:総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会
位置づけ:再エネ主力電源化と制度・系統課題を扱う小委員会
この小委員会は、対象期間内に2025年5月27日の第73回から2026年2月3日の第79回まで継続開催されています。(経済産業省)
2026年2月3日の第79回では、再生可能エネルギーの主力電源化と再エネ特措法に関する諸論点が扱われました。(経済産業省) 2025年11月12日の第77回では、再エネ主力電源化、FIP移行促進、地域との共生、太陽光発電協会や再エネ長期安定電源推進協会の取組方針が議論されています。(経済産業省)
ここでの焦点は、再エネを増やすだけではなく、FIP化、地域共生、長期安定電源化、出力制御、系統制約への対応を含めて、再エネを電力システムに実装することに移っています。
H. 次世代電力系統ワーキンググループ
議論の場:再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会/次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 次世代電力系統WG
位置づけ:再エネ・蓄電池・大規模需要を支える系統ルールの検討
次世代電力系統WGは、2025年6月27日の第3回から2026年4月16日の第10回まで対象期間内に多数開催されています。(経済産業省)
2026年4月16日の第10回では、データセンター・電力問題、局地的な大規模需要に対する規律確保、系統用蓄電池をはじめとする発電等設備の迅速な系統連系が扱われました。(経済産業省) 2026年3月27日の第9回では、系統用蓄電池の迅速な系統連系、系統混雑の中長期見通し、電圧起因による系統安定運用への影響、ローカル系統の電圧対策が扱われています。(経済産業省)
このWGは、電力需要増、とくにデータセンター・半導体・電化需要を背景に、系統の空き容量、接続ルール、系統用蓄電池、電圧対策、混雑管理を実務的に詰める場になっています。
I. 分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ
議論の場:次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会/分散型エネルギー推進戦略WG
位置づけ:DER、蓄電池、需要側リソースを電力システムに組み込む検討
分散型エネルギー推進戦略WGは、2025年12月19日に第1回、2026年3月6日に第2回、2026年4月15日に第3回が開催されています。(経済産業省)
第1回では「分散型エネルギーを取り巻く状況と在り方」、第2回では「分散型エネルギーリソースの導入見通し及び課題等を踏まえた施策の方向性」、第3回では「分散型エネルギーリソースの施策の方向性を踏まえた対応」および「政策の方向性及び具体的施策」が扱われています。(経済産業省)
再エネ・蓄電池・需要応答・VPPのような分散リソースを、単なる補助金対象ではなく、需給運用・系統運用・市場参加の主体として制度化する検討と見てよいです。
J. 洋上風力促進ワーキンググループ
議論の場:再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 洋上風力促進WG/国交省交通政策審議会との合同会議
位置づけ:洋上風力の公募制度・促進区域・セントラル方式の見直し
2026年1月21日の第42回合同会議では、洋上風力事業を完遂させるための新たな公募制度、一般海域における占用公募制度の運用指針改訂案が扱われました。(経済産業省)
2026年3月26日の第43回合同会議では、促進区域指定ガイドライン、セントラル方式運用方針の改訂、船舶航行海域との離隔距離、五島洋上ウィンドファームの商用運転開始、洋上風力の成長戦略が扱われています。(経済産業省)
ここは、再エネの中でも洋上風力を産業政策・港湾政策・地域調整と一体で進める場です。論点は技術そのものより、案件形成、区域指定、公募制度、事業完遂性、地域・海域利用調整にあります。
K. 原子力小委員会・革新炉ワーキンググループ
議論の場:総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会/革新炉WG
位置づけ:電源ポートフォリオの一部として原子力の具体化を検討
原子力小委員会は、対象期間内に2025年6月24日、10月1日、12月17日、2026年3月31日に開催されています。(経済産業省) 第48回、2026年3月31日では、原子力政策の最近の動向、次世代革新炉開発ロードマップ、原子力政策の具体化に向けた論点が扱われました。(経済産業省)
革新炉WGでは、2026年4月8日に「次世代革新炉開発ロードマップ」が公表されています。(経済産業省) 直近資料では、原子力小委員会の議題として、核燃料サイクル、既設炉の最大限活用、次世代革新炉、サプライチェーン、人材、投資環境・ファイナンスが整理されています。(経済産業省)
電力政策全体では、原子力は「安定供給」「脱炭素」「大規模電源投資」の文脈で再整理されており、次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会の投資・ファイナンス論点とも接続しています。
L. 電力・ガス取引監視等委員会 制度設計・監視専門会合
議論の場:電力・ガス取引監視等委員会 制度設計・監視専門会合
位置づけ:市場監視・価格規律・需給調整市場・情報管理の監視側
制度設計・監視専門会合では、2026年3月30日の第19回で、需給調整市場の運用、2026年度における揚水随契、特定地域立地電源の調達方法などが扱われています。(経済産業省EGC)
また、2025年12月10日には、電力・ガス取引監視等委員会が「適正な電力取引についての指針」および「需給調整市場ガイドライン」の改定に関して、経済産業大臣へ建議しています。(経済産業省EGC)
制度設計側の小委員会が「市場をどう設計するか」を扱うのに対し、監視等委員会側は、市場が適正に機能しているか、価格規律・情報管理・競争状態に問題がないかを扱っています。需給調整市場の混乱、揚水の随意契約、情報漏えい対策など、制度運用上の品質管理に近い領域です。
3. 横断的に見た重要論点
3.1 「自由化」から「供給責任の再設計」へ
小売自由化により事業者参入や料金メニュー多様化は進みましたが、燃料価格高騰、需給ひっ迫、事業撤退、託送料金不払いなどの問題も顕在化しました。中間整理では、電力システム改革の次のフェーズとして、選択と競争を活かしつつ、取引市場や事業の予見性確保の制度整備を進める方向が示されています。
特に小売事業者へのkWh確保義務は、「販売だけする小売」から「供給の裏付けを持つ小売」への転換です。これは市場自由化の修正ではなく、自由化市場を安定供給に耐える形へ補強する動きと見るべきです。
3.2 データセンター・半導体・電化需要が系統政策を変えている
次世代電力系統WGでは、データセンター・電力問題、局地的な大規模需要への規律、系統用蓄電池の迅速な連系が議論されています。(経済産業省) 中間整理でも、大規模需要の国内立地により系統接続に時間がかかり、事業者の計画と合わないケースがあること、GX産業立地政策と連携した立地誘導や接続ルール見直しが必要であることが示されています。
これは、電力政策が「発電所をどう作るか」だけでなく、需要をどこに置くかまで含む産業立地政策になりつつあることを意味します。
3.3 再エネは「導入量」から「システム統合」へ
再エネ大量導入小委と次世代電力系統WGでは、再エネ主力電源化、FIP移行、地域共生、出力制御、ノンファーム型接続、系統アクセス、蓄電池、電圧対策が並行して議論されています。(経済産業省)
これまでの「再エネを増やす」局面から、増えた再エネを市場・系統・地域・蓄電池・調整力の中でどう使い切るかに論点が移っています。
3.4 同時市場は、電力市場のOS刷新に近い
同時市場は、kWhとΔkWを別々に調達してきた従来構造を見直し、電力と調整力を一体的に約定する仕組みです。制度設計WGでは、既存の卸電力市場や需給調整市場を代替する市場と位置づけられており、導入可否は市場制度詳細設計とシステム要求定義を経て判断されるとされています。
これは単なる市場機能追加ではなく、需給運用・市場取引・発電機起動停止計画・系統制約を統合する方向であり、電力市場の基盤システム刷新に近い重いテーマです。
4. 今後注視すべきポイント
今後の注目点は、第一に2026年度夏季需給対策と短期供給力確保策です。制度設計WG資料では、2026年夏季の東京エリア予備率が非常に厳しい見通しであることが示されており、2030年代初頭にかけて高需要期の需給が厳しくなる可能性も示されています。
第二に、小売電気事業者のkWh確保義務の具体設計です。これは新電力のビジネスモデルに大きく影響し、電力調達力・中長期契約・リスク管理能力が問われる方向へ進みます。
第三に、データセンター等の大規模需要接続ルールです。これまで電力は需要に合わせて供給する前提でしたが、今後は系統制約・電源立地・GX産業立地とセットで、需要側の立地誘導が政策課題になります。
第四に、同時市場の実装可能性です。制度設計だけでなく、SCUC・SCED、価格算定、精算、運営主体、システム開発が絡むため、電力市場制度と情報システムの両方で大きな影響があります。
第五に、原子力・長期脱炭素電源・火力脱炭素化の投資環境です。電源投資は長期・巨額であり、自由化市場だけでは回収予見性が不足するため、容量市場、長期脱炭素電源オークション、公的ファイナンス、制度変更リスク補正が重要になります。
5. 総括
直近1年の経産省の電力分野の検討は、次の一文に集約できます。
「市場自由化を前提にしつつも、電力という物理インフラの安定供給責任、脱炭素投資、系統制約、需要立地、燃料安全保障を制度の中心に戻す動き」です。
従来の論点が「発電・送配電・小売を分けて競争を促す」だったのに対し、現在の論点は、分けた後に、どうやって全体最適を取り戻すかです。特に、次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会、制度設計WG、制度検討作業部会、同時市場検討会、次世代電力系統WGの動きは、今後の電力制度の骨格を決めるものとして継続監視が必要です
動画はこちら。