はじめに
独自ドメインでWebサイトとメールを運用している方の多くは、レンタルサーバーを契約していると思います。しかし「WordPressの更新やセキュリティ対応が面倒」「サーバー費用を削減したい」と感じることはないでしょうか。
私自身、長年さくらのレンタルサーバーでWordPressとメールを運用していましたが、WordPress管理の負担を機に構成を見直しました。結果として、かかるコストはドメイン維持費のみという状態を実現できました。
この記事では、その移行過程と具体的な設定手順を紹介します。
旧構成と課題
【旧構成】レンタルサーバー ├── Web: WordPress └── Mail: レンタルサーバーのメール機能
【旧構成】レンタルサーバー
├── Web: WordPress
└── Mail: レンタルサーバーのメール機能
課題は主に2点でした。
- WordPressの運用負担: プラグインのアップデート、セキュリティ対応、スパムコメントへの対処など、コンテンツ更新以外の作業が増え続けていた
- 費用: 月額費用が発生しているにもかかわらず、ほとんど更新のないサイトのために払い続けることへの疑問
Webサイトの目的を改めて考えると「会社やサービスの存在を示す名刺代わりの1ページがあれば十分」という結論に至りました。一方、メールは業務上必須なので継続が必要です。
新構成の概要
【新構成】サーバーレス ├── Web: Cloudflare Pages(GitHub連携) └── Mail: 受信 = Cloudflare Email Routing → Gmailへ転送 送信 = SMTP2GO経由でGmailから送信
【新構成】サーバーレス
├── Web: Cloudflare Pages(GitHub連携)
└── Mail:
受信 = Cloudflare Email Routing → Gmailへ転送
送信 = SMTP2GO経由でGmailから送信
利用するサービスはすべて無料プランで完結します。
| サービス | 役割 | 費用 |
|---|---|---|
| Cloudflare Pages | 静的Webサイトのホスティング | 無料 |
| Cloudflare Email Routing | 独自ドメインのメール受信・転送 | 無料 |
| SMTP2GO | 独自ドメインからのメール送信 | 無料(月1,000通まで) |
| Gmail | メールの読み書きインターフェース | 無料 |
| GitHub | Webコンテンツのバージョン管理 | 無料 |
唯一かかる費用はドメイン登録・維持費のみです。
設定手順
1. WebサイトをCloudflare Pagesで公開する
1-1. HTMLファイルを準備する
WordPressをやめてシンプルな静的ページに切り替えます。最小限の index.html を用意するだけで十分です。
サイトタイトル
お問い合わせはメールにてお願いいたします。
<!DOCTYPE html>
<html lang="ja">
<head>
<meta charset="UTF-8">
<meta name="viewport" content="width=device-width, initial-scale=1.0">
<title>サイトタイトル</title>
</head>
<body>
<h1>サイトタイトル</h1>
<p>お問い合わせはメールにてお願いいたします。</p>
</body>
</html>
ポイント:
<meta charset="UTF-8">を<head>の先頭に書かないと日本語が文字化けします。
1-2. GitHubリポジトリを作成する
index.html をGitHubのリポジトリに push します。Cloudflare Pagesがこのリポジトリを監視し、変更があれば自動でデプロイします。
1-3. Cloudflare PagesにGitHubを連携する
- Cloudflare Dashboard → Workers & Pages → 作成 → Pages
- 「Gitに接続」 を選択
- GitHubアカウントを認証し、対象リポジトリを選択
- ビルド設定:
- フレームワークプリセット: 「なし」
- ビルドコマンド・出力ディレクトリ: 空欄(HTMLファイルをそのまま配信するだけのため不要)
- 「保存してデプロイ」 をクリック
1-4. カスタムドメインを設定する
- Pagesプロジェクト → 「カスタムドメイン」 タブ
- 独自ドメインを入力して追加
- CloudflareがDNSレコード(CNAME)を自動作成する
www ありのURLも対応させる場合は、同様に www.example.com も追加します。
注意: 独自ドメインを追加する際、既存のAレコードが競合してエラーになる場合があります。その場合はDNSからルートドメイン(
@)のAレコードを削除してから再試行してください。
これでWebサイトの公開は完了です。以降は git push するだけでサイトが更新されます。
2. メール受信をCloudflare Email Routingで設定する
Cloudflare Email Routingを使うと、独自ドメインのメールアドレス宛のメールをGmailなど既存のメールボックスへ転送できます。メールボックス自体はCloudflareが持たず、あくまで「転送」のみです。
2-1. 転送先アドレスを登録する
- Cloudflare Dashboard → ドメインを選択 → Email → Email Routing
- 「Destination addresses」 で転送先のGmailアドレスを登録・認証(Gmailに確認メールが届くのでリンクをクリック)
2-2. 転送ルールを設定する
- 「Routing rules」 で転送元の独自ドメインアドレスを追加
- 転送先に先ほど認証したGmailアドレスを指定
- 複数のアドレスを作りたい場合は同じ手順を繰り返す
2-3. DNSレコードの確認
Email Routingを有効にすると、CloudflareがMXレコードとSPFレコード(後述)を自動で設定します。
MX example.com route1.mx.cloudflare.net (自動設定) TXT example.com v=spf1 include:_spf.mx.cloudflare.net ~all (自動設定)
MX example.com route1.mx.cloudflare.net (自動設定)
TXT example.com v=spf1 include:_spf.mx.cloudflare.net ~all (自動設定)
重要: MXレコードのプロキシステータスは必ず 「DNSのみ(グレーの雲)」 にしてください。プロキシ済み(オレンジ)にするとメールが届かなくなります。
3. メール送信をSMTP2GOで設定する
Cloudflare Email RoutingはあくまでもGmailへの「転送」です。Gmailから独自ドメインのアドレスで返信・送信するには、外部のSMTPサーバーが必要です。
GmailのSMTPサーバーを使う方法もありますが、SMTP2GOなどの専用サービスを使う方がDKIMによる電子署名が付与され、到達率が高くなります。
3-1. SMTP2GOでドメインを認証する
- SMTP2GO にサインアップ
- Sending → Verified Senders → Add a sender domain でドメインを追加
- 表示された3つのCNAMEレコードをCloudflareのDNSに追加する
CNAME em._domainkey.example.com → SMTP2GOが指定する値 CNAME s1._domainkey.example.com → SMTP2GOが指定する値 CNAME s2._domainkey.example.com → SMTP2GOが指定する値
CNAME em._domainkey.example.com → SMTP2GOが指定する値
CNAME s1._domainkey.example.com → SMTP2GOが指定する値
CNAME s2._domainkey.example.com → SMTP2GOが指定する値
注意: CNAMEレコードを追加する際、プロキシステータスは 「DNSのみ(グレーの雲)」 にしてください。プロキシ済みだとDKIM認証に失敗します。
- SMTP2GOの画面で 「Verify」 をクリックし、全項目が緑になれば完了
3-2. SMTPユーザーを作成する
- Sending → SMTP Users → Add SMTP User
- ユーザー名(メールアドレス形式推奨)とパスワードを設定して保存
- このユーザー名・パスワードをGmailの設定で使用する
3-3. GmailにSMTP設定を追加する
- Gmailの設定(歯車)→ 「すべての設定を表示」 → 「アカウントとインポート」
- 「名前」 欄の 「他のメールアドレスを追加」 をクリック
- 以下を入力:
| 項目 | 値 |
|---|---|
| メールアドレス | 独自ドメインのアドレス(例: info@example.com) |
| SMTPサーバー | mail.smtp2go.com |
| ポート | 587 |
| ユーザー名 | SMTP2GOで作成したSMTPユーザー名 |
| パスワード | SMTP2GOで作成したSMTPパスワード |
| 接続方法 | TLS |
- Gmailに届く確認メールのリンクをクリックして認証完了
3-4. 返信時のアドレスを自動切り替えにする
「アカウントとインポート」 画面で 「メッセージを受信したアドレスから返信する」 を選択しておくと、独自ドメイン宛に届いたメールへの返信が自動的にそのアドレスで送られます。
4. SPFレコードを整合させる
SMTP2GOでのドメイン認証が完了すると、SPFレコードにSMTP2GOの情報を追加する必要があります。Cloudflare Email RoutingがSPFを自動設定済みの場合は、それを上書きせず追記します。
# 変更前(Cloudflareが自動設定した状態) v=spf1 include:_spf.mx.cloudflare.net ~all
変更後(SMTP2GOを追記)
v=spf1 include:_spf.mx.cloudflare.net include:spf.smtp2go.com ~all
# 変更前(Cloudflareが自動設定した状態)
v=spf1 include:_spf.mx.cloudflare.net ~all
# 変更後(SMTP2GOを追記)
v=spf1 include:_spf.mx.cloudflare.net include:spf.smtp2go.com ~all
Cloudflare Dashboard → DNS → レコード で上記TXTレコードを編集します。
設定反映後、コマンドラインで確認できます。
dig TXT example.com +short
dig TXT example.com +short
include:spf.smtp2go.com が含まれていれば成功です。
5. DMARCレコードを設定する(推奨)
DMARCはSPF・DKIMと組み合わせて、なりすましメールへの対策を強化する仕組みです。2024年以降、GmailやYahooへの到達率にも影響します。
TXT _dmarc.example.com “v=DMARC1; p=quarantine; aspf=r; adkim=r; rua=mailto:dmarc@example.com”
TXT _dmarc.example.com "v=DMARC1; p=quarantine; aspf=r; adkim=r; rua=mailto:dmarc@example.com"
| パラメータ | 説明 |
|---|---|
p=quarantine | 認証失敗したメールを迷惑メールフォルダへ(reject にするとより厳格) |
aspf=r / adkim=r | SPF・DKIMの照合を「緩やか(relaxed)」に設定 |
rua=mailto:... | DMARCレポートの受信先アドレス |
最終的なDNSレコード構成
| タイプ | 名前 | コンテンツ | プロキシ |
|---|---|---|---|
| CNAME | example.com | Cloudflare Pagesのドメイン | オン |
| CNAME | www | example.com | オン |
| MX | example.com | Cloudflareのメールルーティングサーバー | オフ(必須) |
| TXT | example.com | v=spf1 include:_spf.mx.cloudflare.net include:spf.smtp2go.com ~all | オフ |
| TXT | _dmarc | v=DMARC1; p=quarantine; ... | オフ |
| CNAME | DKIM用(複数) | SMTP2GOが指定する値 | オフ(必須) |
移行後の運用
Webサイトの更新
# index.htmlを編集して push するだけ git add index.html git commit -m “サイト内容を更新” git push
→ 数十秒でjxis.comに自動反映
# index.htmlを編集して push するだけ
git add index.html
git commit -m "サイト内容を更新"
git push
# → 数十秒でjxis.comに自動反映
メールの送受信
- 受信: Gmailに転送されるので、通常のGmailと同じように確認
- 送信・返信: Gmail作成画面の「差出人」欄で独自ドメインのアドレスを選択
まとめ
| 項目 | 移行前 | 移行後 |
|---|---|---|
| Webホスティング | レンタルサーバー(有料) | Cloudflare Pages(無料) |
| メール受信 | レンタルサーバー(有料) | Cloudflare Email Routing(無料) |
| メール送信 | レンタルサーバー(有料) | SMTP2GO(無料) |
| 月額費用 | サーバー費用 | ゼロ(ドメイン費用のみ) |
| Web更新方法 | WordPress管理画面 | git push |
| メールクライアント | 各種メールソフト | Gmail |
この構成の最大のメリットはコストゼロと管理の単純化です。WordPressの煩雑な管理から解放され、メールもGmailに集約されるので、実質的な作業負担は大幅に減りました。
「独自ドメインのメールは使いたいが、サーバー管理の手間は省きたい」という方に、ぜひ試していただきたい構成です。