【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第9回:2500GW仮説の一次試算

前回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第8回:具体的な試算設計

— 年間電力量と需要側排熱のスケールを確認する —

第8回では、電力予算モデルを実際の試算へ落とし込むために、試算対象、前提条件、シナリオ、感度分析の設計を整理した。第9回では、その最初の一次試算として、2,500GW超の系統接続待ち規模を参考に、これを仮に一定規模の電力利用が常時発生した場合として置き、年間電力量と需要側排熱のスケールを確認する。ここではCO₂排出量や電源ミックスには踏み込まず、電力と熱の大きさを把握することに集中する。

1.このセクションの問い

2,500GW超の系統接続待ち規模を参考にした思考実験として、仮にこの規模の電力利用が常時発生した場合、年間電力量と需要側排熱はどの程度のスケールになるのか。

2.暫定結論

2500GW規模の電力を常時利用として置くと、年間電力量は約21,900TWhとなる。需要側で消費された電力は、最終的にはほぼすべて熱として放出されるため、施設全体電力として見れば需要側排熱は約2.5TW規模になる。ただし、2500GWを施設全体電力と見るか、IT負荷と見るかによって、PUEの解釈と施設全体電力は大きく変わる。

3.試算の前提

  • 2,500GW超の系統接続待ち規模を参考にした思考実験であり、需要予測ではない
  • 年間時間は8,760時間
  • まず2,500GWを施設全体電力として置く(主ケース)
  • 補助ケースとして、2,500GWをIT負荷とみなした場合のPUE感度も確認する
  • CO₂排出量や電源ミックスの評価は第10回以降で扱う

4.基本計算

本試算では、次の関係式を用いる。

年間電力量

$$E = P \times 8{,}760$$

施設全体電力とIT負荷の関係(PUEの定義)

$$P_{DC} = P_{IT} \times PUE$$

付帯設備分の消費電力

$$P_{aux} = P_{DC} – P_{IT}$$

需要側排熱の近似

$$Q_{demand} \approx P_{DC}$$

電力はIT機器、冷却設備、電源設備、照明などで仕事をした後、最終的にはほぼすべて熱として周囲に放出される。そのため、需要側排熱は施設全体電力にほぼ等しいと考える。

5.主ケース:2500GWを施設全体電力として見る

2,500GWを施設全体電力として置いた場合:

$$E = 2{,}500\,\text{GW} \times 8{,}760\,\text{h} = 21{,}900\,\text{TWh/年}$$

需要側排熱:

$$Q_{demand} \approx 2.5\,\text{TW}$$

この場合、PUEは総量を増やす係数ではなく、施設全体電力の中でIT負荷と付帯設備がどのように分かれるかを見るための指標になる。

PUE施設全体電力推定IT負荷付帯設備分需要側排熱
1.12,500GW2,273GW227GW2.5TW
1.32,500GW1,923GW577GW2.5TW
1.52,500GW1,667GW833GW2.5TW
1.72,500GW1,471GW1,029GW2.5TW
2.02,500GW1,250GW1,250GW2.5TW

注:数値は概算。推定IT負荷 = 施設全体電力 ÷ PUE。付帯設備分 = 施設全体電力 − 推定IT負荷。

主ケースでは、PUEが変わっても施設全体電力と需要側排熱は2,500GW・2.5TWのままである。PUEが低いほど、同じ施設全体電力の中でより多くをIT負荷に割り当てられることを意味する。

6.世界の電力量と比べるとどの程度か

21,900TWh/年という値は、単独では直感しにくい。しかし、2024年の世界発電量約30,937TWhと比較すると、その約71%に相当する。日本の年間発電量と比べれば約21.6倍であり、これは単なる局所的な追加需要ではなく、世界の電力システム全体に近い規模を扱う思考実験であることが分かる。

比較対象年間発電量21,900TWhとの比較
世界約30,937TWh約71%
日本約1,016TWh約21.6倍
中国約10,087TWh約2.2倍
米国約4,391TWh約5.0倍
インド約2,030TWh約10.8倍

注:各国・地域の年間発電量は、Ember の Yearly Electricity Data に基づく2024年の代表値として扱う。統計値は更新される可能性があるため、本稿では規模感を把握するための参考値として用いる。

7**.補助ケース:2500GWをIT負荷として見る**

比較のため、2,500GWをIT負荷とみなした場合も整理する。この場合は $P_{DC} = P_{IT} \times PUE$ となるため、PUEが大きいほど施設全体電力と需要側排熱が増える。

PUEIT負荷施設全体電力年間電力量需要側排熱
1.12,500GW2,750GW24,090TWh2.75TW
1.32,500GW3,250GW28,470TWh3.25TW
1.52,500GW3,750GW32,850TWh3.75TW
1.72,500GW4,250GW37,230TWh4.25TW
2.02,500GW5,000GW43,800TWh5.0TW

注:これは補助ケースであり、2,500GWをデータセンターのIT負荷として予測しているという意味ではない。

補助ケースでは、PUEが1.1から2.0に変わると、施設全体電力は2,750GWから5,000GWへ、年間電力量は24,090TWhから43,800TWhへと大きく変わる。

補助ケースで2,500GWをIT負荷とみなし、PUE 1.5 とすると年間電力量は32,850TWhとなり、2024年の世界発電量約30,937TWhを上回る。PUE 2.0では43,800TWhとなり、世界発電量の約142%に相当する。これは、基準をIT負荷に置くか施設全体電力に置くかで、試算結果の意味が大きく変わることを示している。

8**.何が分かるか**

  • 2500GW規模を常時電力利用として置くと、年間21,900TWhという非常に大きな電力量になる
  • 需要側排熱は、施設全体電力にほぼ等しい(エネルギー収支の原則)
  • PUEは、2500GWを施設全体電力として見るかIT負荷として見るかで意味が変わる
  • 施設全体電力を基準にする場合、PUEは総量ではなく施設内の内訳の問題になる
  • IT負荷を基準にする場合、PUEは施設全体電力と排熱を大きく左右する
  • したがって、電力予算モデルでは「何を基準値として置くか」を明確にする必要がある

9.何を意味しないか

  • これはデータセンター需要の予測ではない
  • 2,500GWの新規需要が必ず発生するという意味ではない
  • CO₂排出量や電源ミックスの優劣を示すものではない
  • 重要鉱物や送電網の制約を定量評価したものではない
  • あくまで電力・排熱スケールを把握するための一次試算である

10.今後の展開

次回は、この年間電力量を前提に、発電方式別のLCA CO₂係数を用いて、石炭、天然ガス、太陽光、風力、原子力などで供給した場合の年間CO₂排出量を一次試算する。

次回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第10回:発電方式別CO₂/LCA CO₂の数値試算

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