【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第8回:具体的な試算設計

前回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第7回:資源制約から逆算する電力予算モデル

— 電力予算モデルをどう計算に落とし込むか —

第7回では、排熱、LCA CO₂、重要鉱物、送電網、蓄電、土地利用、社会受容性、政策制約を統合し、資源制約から逆算する電力予算モデルを提示した。第8回では、この概念モデルを実際の試算に落とし込むための設計を行う。ここでは計算結果を出すのではなく、何を試算対象とし、どの制約を扱い、どの前提条件を置き、どのようにシナリオと感度分析を設計するかを整理する。

1.このセクションの問い

電力予算モデルを実際に試算するには、どのような対象、前提条件、制約項目、シナリオを設計すればよいのか。

2.暫定結論

第8回では、具体的な計算結果ではなく、試算の設計を行う。試算対象、固定値、変数、制約項目、シナリオ、感度分析、不確実性の扱いを整理することで、第9回以降の年間電力量、排熱、LCA CO₂、電源ミックス、CO₂予算照合の試算につなげる。

3.何を試算対象にするか

試算の起点として、2,500GW超の系統接続待ち規模を参考にした思考実験を用いる。AIデータセンターを含む大口需要や電源・蓄電プロジェクトの接続待ち規模として報告されているこの数字を、仮に一定規模の電力利用が常時発生した場合のシナリオとして置く。これはデータセンター需要の確定予測ではなく、電力予算を考えるための規模感の前提である。

具体的には、次のような試算項目を段階的に扱う。

  • 年間電力量(GW規模の常時需要を年換算)
  • 需要側排熱(PUEに依存する施設排熱)
  • 発電所側排熱(発電効率と電源構成による排熱量)
  • LCA CO₂排出量(電源ミックス別の年間排出量)
  • 電源ミックスシナリオ別のCO₂予算消費
  • CO₂予算との照合(残余炭素予算との対照)

ただし、重要鉱物制約、送電網制約、蓄電制約、土地利用制約、社会受容性制約については、第8回〜第12回の範囲では定量計算よりも定性的な制約の位置関係の確認を優先する。

4.制約項目をどう扱うか

第7回で整理した制約項目のうち、第9回以降では次の順序で段階的に扱う。

まず定量化を優先する項目:

  • 電力量(年間電力量 = 想定電力規模 × 年間時間)
  • 需要側排熱(電力規模 × PUE から推計)
  • 発電所側排熱(発電効率と電源構成から推計)
  • LCA CO₂排出量(IPCC 2014係数を代表値として使用)
  • CO₂予算との照合(残余炭素予算との比較)

定性的な整理にとどめる項目(今後の拡張課題):

  • 重要鉱物の供給可能量
  • 送電網の増強可能量
  • 蓄電設備の拡張可能量
  • 土地利用・社会受容性

5.固定値と変数

試算では、固定値と変数を明確に区別する。

5.1.固定値(基本前提として固定する値)

  • 年間時間:8,760時間
  • 想定電力規模:2,500GW(思考実験上の仮定値)
  • 年間電力量:21,900 TWh(= 2,500 GW × 8,760 h)
  • LCA CO₂係数の参照源:IPCC 2014(代表値)

5.2.変数(シナリオ・感度分析で変化させる値)

  • PUE:施設の電力使用効率(1.1〜2.0 の範囲で感度確認)
  • 電源ミックス:化石燃料系・再エネ系・原子力系の比率
  • 発電方式別LCA CO₂係数:IPCC 2014の中央値を基本とし、幅を確認
  • 送電損失:送電距離・系統構成による損失率
  • 蓄電ロス:蓄電技術種別による充放電効率
  • 設備利用率:電源種別の年間稼働時間の比率

6.シナリオ設計

電源ミックスについて、少なくとも次の4シナリオを試算対象として設計する。

シナリオ構成の方向性目的
A:化石燃料中心石炭・天然ガス中心、再エネ少CO₂排出量の上限を確認
B:化石燃料・再エネ混合石炭・ガス・再エネを均等に混合中間的な排出構造を確認
C:再エネ+原子力中心再エネと原子力を中心、調整に天然ガスCO₂削減効果を確認
D:再エネ+原子力高比率再エネと原子力の比率をさらに高める最大削減シナリオの限界を確認

各シナリオの具体的な電源比率(石炭・LNG・太陽光・風力・原子力など)は、第11回のシナリオ分析で設計する。

需要側の試算としては、PUE感度分析(第9回)を別途設計する。PUEが1.1から2.0に変わった場合、同じIT負荷を処理するために必要な施設電力がどのように変わるかを確認する。

7.感度分析

次の変数について、値を変化させたときに結果(年間電力量・排熱量・CO₂排出量)がどの程度変わるかを確認する設計にする。

  • PUE(需要側の電力効率):1.1、1.3、1.5、1.7、2.0 を試算
  • 電源ミックス:上記4シナリオで比較
  • LCA CO₂係数:IPCC 2014の中央値±信頼区間幅で確認
  • 送電損失:2〜10%の範囲で影響を確認
  • 蓄電ロス:蓄電技術別の充放電効率の違い

感度分析の目的は、どの変数が結果に最も影響するかを把握し、制約設計の優先順位を考えることである。

8.不確実性と注意点

試算において数値は代表値・参考値として扱う。実際の排出量、排熱量、資源需要は、地域、技術世代、設備利用率、算定範囲、政策条件によって変動する。

試算結果は確定的な予測ではなく、制約構造を理解するための一次評価として位置付ける。特に次の点に留意する。

  • IPCC 2014のLCA CO₂係数は国際的な代表値であり、個別の発電所・地域に適用すると実態と乖離する場合がある
  • PUEは設計値と運用実績が異なる場合があり、地域の気候条件によっても変わる
  • CO₂予算(残余炭素予算)の推計値は科学的に幅があり、本試算では複数の値を参照する
  • 試算結果は、政策判断や投資判断に直接用いるものではなく、傾向と構造を把握するための素材である

9.第9回以降では何を数値で見るのか

第8回では計算結果そのものは示さない。しかし、第9回以降で扱う数値の種類を先に整理しておくことで、後半の試算が単なる数字の羅列ではなく、電力予算モデルに沿った比較であることが明確になる。

主な試算対象主な単位比較軸
第9回年間電力量・需要側排熱TWh/年、TW世界発電量、日本・中国・米国・インドとの比較
第10回発電方式別LCA CO₂排出量gCO₂e/kWh、GtCO₂e/年石炭・天然ガス・太陽光・風力・原子力の比較
第11回電源ミックス別排出量加重平均gCO₂e/kWh、GtCO₂e/年化石中心・中間・低炭素中心シナリオの比較
第12回CO₂予算との照合GtCO₂e、年数500Gt、750Gt、1000Gt予算ケースでの消費年数
第13回全体総括倍率、比率、年数何が何倍違ったのかを回収し、電力予算という考え方で見えたことを整理する

電力量はTWh/年、排熱はTW、CO₂排出量はGtCO₂e/年、CO₂予算との照合は年数で示す。重要なのは、それぞれの値を単独で読むのではなく、世界発電量、主要国、発電方式、電源ミックス、CO₂予算と比較することである。

第9〜13回の試算では、「何TWhか」「何TWか」「何GtCO₂eか」だけでなく、それが世界発電量の何割に相当するのか、電源方式で何倍違うのか、CO₂予算を何年で消費するのかを比較していく。これらの比較を通じて、電力予算モデルの各制約が実際にどのくらいの厳しさを持つかが見えてくる。

第9回から第12回では、年間電力量、排熱、LCA CO₂e、電源ミックス、CO₂予算との照合を個別に試算する。第13回では、それらの倍率・比率・年数を総括し、電力予算という考え方で何が見えたのかを整理する。

10.今後の展開

第9回では、2,500GW超の系統接続待ち規模を参考にした思考実験として、仮に一定規模の電力利用が常時発生した場合の年間電力量と需要側排熱を一次試算する。

次回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第9回:2500GW仮説の一次試算

← ITQ Lab トップに戻る