前回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第11回:電源ミックス別LCA CO₂e試算
— 年間LCA CO₂e排出量は、CO₂予算を何年で消費する規模か —
第11回では、21,900TWh/年の電力を4つの電源ミックスシナリオで供給した場合の年間LCA CO₂e排出量を試算した。第12回では、その年間排出量を複数のCO₂予算ケースと照合し、この規模の電力利用がCO₂予算を何年で消費する規模に相当するかを確認する。ここでの照合は、LCA CO₂eとCO₂単独の残余予算を厳密に同一視するものではなく、排出規模を把握するための一次的な比較である。
1.このセクションの問い
第11回で求めた電源ミックス別の年間LCA CO₂e排出量は、500Gt、750Gt、1000GtのCO₂予算ケースに対して、何年分の消費規模に相当するのか。
2.暫定結論
500GtのCO₂予算ケースで見ると、化石燃料中心のシナリオAは約33.8年で予算相当量を消費する規模になる。一方、低炭素中心のシナリオCでは約268.8年となり、消費年数には約8倍の差が生じる。これは、第11回で確認した年間排出量の差が、そのままCO₂予算消費ペースの差として現れることを示している。ただし、本稿の照合はLCA CO₂eとCO₂単独予算の近似比較であり、厳密な気候モデル評価ではない。
3.試算の前提
- 第11回で求めた電源ミックス別年間LCA CO₂e排出量を用いる
- CO₂予算ケース: 500Gt / 750Gt / 1000Gt
- 500GtはIPCC AR6統合報告書が示す2020年初からの1.5℃・50%確率目安に近い値として扱う
- 750Gt / 1000Gt は本稿の感度分析用ケースとして扱う
- LCA CO₂eとCO₂単独の残余予算は厳密には同じ概念ではない
- 本稿は排出規模を把握するための一次照合であり、政策判断・投資判断に直接用いるものではない
4.LCA CO₂eとCO₂予算をどう扱うか
LCA CO₂eは、CO₂以外の温室効果ガス(CH₄、N₂Oなど)を地球温暖化係数(GWP)でCO₂換算した値を含む。一方、残余CO₂予算は基本的にはCO₂単独の累積排出量として扱われることが多い。そのため、LCA CO₂e排出量をCO₂予算にそのまま割り算することは、厳密な気候モデル評価ではない。本稿では、同じ単位表記に近似したスケール比較として扱い、シナリオ間の相対差を見ることを目的とする。
なお、GWP100の代表値についてはIPCC AR6 WG1を参照(出典メモ参照)。
5.第11回の結果の再掲
| シナリオ | 位置づけ | 年間LCA CO₂e排出量 |
| A | 化石燃料中心 | 14.82 GtCO₂e/年 |
| B | 化石燃料・再エネ混合 | 9.03 GtCO₂e/年 |
| C | 低炭素中心 | 1.86 GtCO₂e/年 |
| D | 再エネ・原子力・天然ガス調整力の組み合わせ | 2.75 GtCO₂e/年 |
6.CO₂予算消費の計算式
消費年数は次の式で求める。
\(\text{消費年数} = \frac{\text{CO₂予算ケース [GtCO₂]}}{\text{年間LCA CO₂e排出量 [GtCO₂e/年]}}\)
年間消費率として示す場合:
\(\text{年間消費率} = \frac{\text{年間LCA CO₂e排出量}}{\text{CO₂予算ケース}} \times 100\)
> これはCO₂eとCO₂予算の近似比較であり、厳密な気候モデル評価ではない。
7.CO₂予算ケースによる比較
IPCC AR6統合報告書では、2020年初めからの残余炭素予算として、1.5℃を50%の確率で抑える場合を約500GtCO₂と整理している。したがって500GtはAR6の1.5℃目安に近い値として扱う。750Gtと1000Gtは本稿の感度分析用ケースである。
| シナリオ | 年間LCA CO₂e排出量 | 500Gtケース | 750Gtケース | 1000Gtケース |
| A | 14.82 GtCO₂e/年 | 約33.8年 | 約50.6年 | 約67.5年 |
| B | 9.03 GtCO₂e/年 | 約55.4年 | 約83.1年 | 約110.7年 |
| C | 1.86 GtCO₂e/年 | 約268.8年 | 約403.2年 | 約537.6年 |
| D | 2.75 GtCO₂e/年 | 約181.8年 | 約272.7年 | 約363.6年 |
8.この試算が示すこと
500Gtケースを基準にすると、シナリオ間の年間排出量と消費年数に以下の差が生じる。
- シナリオAの年間排出量はシナリオCの約8.0倍(14.82 vs 1.86 GtCO₂e/年)。500GtケースではシナリオCがシナリオAの約8.0倍長くCO₂予算相当量を維持できる計算になる(268.8年 vs 33.8年)
- シナリオAの年間排出量はシナリオDの約5.4倍(14.82 vs 2.75 GtCO₂e/年)。消費年数にも同倍率の差が生じる(33.8年 vs 181.8年)
- シナリオBの年間排出量はシナリオCの約4.9倍(9.03 vs 1.86 GtCO₂e/年)。消費年数にも同倍率の差が生じる(55.4年 vs 268.8年)
- シナリオDの年間排出量はシナリオCの約1.5倍(2.75 vs 1.86 GtCO₂e/年)。消費年数にも同倍率の差が生じる(181.8年 vs 268.8年)
これは第11回で確認した年間排出量の差(8倍)がそのまま消費ペースの差として現れた結果である。低炭素化は、同じ電力量でもCO₂予算を消費する速度を大きく変える。ただし、CO₂予算だけで電力予算は決まらず、排熱、重要鉱物、送電網、蓄電、社会受容性の制約も残る。
9.何を意味しないか
- これは厳密な気候モデル評価ではない
- 500Gt / 750Gt / 1000Gt が特定の気温目標に一対一対応するという意味ではない
- LCA CO₂eとCO₂単独予算を完全に同一視しているわけではない
- 各シナリオの実現可能性を保証するものではない
- 電源ミックスの最適解を示すものではない
- 排熱、重要鉱物、送電網、蓄電、水資源、社会受容性の制約は別途評価が必要
10.重要な注意事項
本稿は、LCA CO₂e排出量とCO₂予算ケースを便宜的に照合し、排出規模の大きさとシナリオ間の相対差を把握するための一次比較である。CO₂予算を厳密に評価するには、CO₂単独排出量、非CO₂温室効果ガス、土地利用変化、将来の排出経路、気候感度などを含む気候モデル上の扱いが必要である。
LCA CO₂eは排出規模の大きさを把握するための代表値・参考値として扱う。係数はIPCC 2014 / AR5 WG3 Annex III, Table A.III.2 由来であり、最新設備や地域別条件を反映した確定値ではない。
11.出典メモ
- CO₂予算の参照値:IPCC AR6 WG1 Chapter 5 Table 5.8(2020年起算の残余炭素予算)。1.5℃・50%確率目安は約500GtCO₂。
- GWP100の参照値:IPCC AR6 WG1で示されるGWP100の代表的な値として、CH₄は条件により約27〜30、N₂Oは約273とされる。LCA CO₂eはこれらを含む複合排出量。
- LCA CO₂係数:IPCC 2014 / AR5 WG3 Annex III, Table A.III.2(代表値)。
12.今後の展開
次回は、第2回から第12回までに得られた倍率、比率、年数を総括し、「電力予算」という考え方で何が見えたのかを整理する。世界発電量との比較、需要側排熱、発電方式別LCA CO₂e、電源ミックス、CO₂予算照合を横断して、持続的に使える電力量を制約から逆算する意味を確認する。