【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第5回:再エネ拡大と重要鉱物制約

前回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第4回:ライフサイクルCO₂比較

— 低炭素電源は資源制約から自由ではない —

第4回では、発電方式をライフサイクルCO₂で比較し、運転時だけでなく製造・建設・燃料調達・廃棄まで含めて評価する必要があることを確認した。第5回では、低炭素電源を大規模に拡大する際に必要となる重要鉱物に注目する。再生可能エネルギーはCO₂削減の有力な手段である一方、太陽光パネル、風力発電設備、蓄電池、送電網などを支える素材とサプライチェーンにも制約がある。

1.このセクションの問い

低炭素電源を大規模に拡大するとき、重要鉱物やサプライチェーンはどのような制約になるのか。

2.暫定結論

再エネ拡大は電力の脱炭素化に有力な手段であるが、必要な重要鉱物の採掘・精錬・製造・輸送能力や、環境負荷、地政学リスク、社会的合意も同時に制約となり得る。電力予算を考える上で、CO₂だけでなく資源制約を同時に見る必要がある。

3.なぜ再エネ拡大と重要鉱物がセットになるのか

第4回では、LCA CO₂の視点から電力源を比較した。ここでは、低炭素電源の大規模な拡大が、素材・資源制約とどのように結びつくかを整理する。

再生可能エネルギーはCO₂削減の有力な手段である。同時に、太陽光パネルや風力タービン、蓄電設備、電力変換装置を作るには、リチウム、コバルト、ニッケル、レアアース、銅などの重要鉱物が必要になる。ここで重要なのは、「地球上に資源が存在するか」だけが制約ではない点である。必要な時期に、必要な量を、環境負荷や社会的合意を伴いながら採掘・精錬・輸送できるかが、拡大速度を左右するボトルネックとなり得る。

4.再エネ設備別の主な必要鉱物

太陽光、風力、蓄電池、送電設備では、それぞれ必要となる素材が異なる。

  • 太陽光パネル
    • シリコン(多結晶・単結晶)、銀、インジウム、テルルなどを使用
    • 製造時の電力消費が大きく、製造国の電源構成がLCA CO₂に影響する
  • 風力発電設備
    • レアアース(ネオジムなど)を使った永久磁石が高効率発電に利用される
    • タービン、タワー、基礎には大量の鉄鋼・銅が必要になる
  • 蓄電池(リチウムイオン系)
    • リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンが主な構成素材
    • 系統調整力の確保に必要だが、素材の採掘・精錬は環境負荷が高い場合がある
  • 送電網・変電設備
    • 銅・アルミニウムが大量に必要になる
    • 再エネ拡大と送電網強化が同時進行すると、需要が重なりボトルネックとなり得る

5.「埋蔵量」だけが制約ではない

重要鉱物の制約を考えるとき、埋蔵量の大小だけで判断するのは不十分である。実際の制約は複数の層から成る。

  • 採掘能力:現在稼働している鉱山とその生産能力
  • 精錬・加工能力:採掘した原料を使える素材に変換する工程の能力
  • 製造能力:素材から設備に仕上げるための生産体制
  • 輸送・物流:原料・部品・製品のサプライチェーン
  • 環境負荷と社会的合意:採掘・精錬に伴う土地利用、水利用、廃棄物、地域住民の合意
  • 労働・人権:採掘現場の労働環境と倫理的調達
  • 地政学リスク:主要産出国・精錬国への依存度と供給の安定性

これらのいずれかがボトルネックとなり得るため、供給量だけでなく、供給速度と社会的受容性が電力予算を考える上で無視できない要素になる。

6.重要鉱物制約はどこに現れるのか

重要鉱物制約は、「地中に存在する量」だけで決まるわけではない。実際には、採掘できる量、精錬できる能力、製造工程に供給できる速度、特定国・特定企業への集中、輸送・貿易制約、環境負荷、地域合意によって制約される。

観点定量的に見るべき指標意味
採掘年間生産量、上位国シェア必要量を掘り出せるか
精錬精錬能力、処理国シェア採掘した鉱石を使える素材にできるか
製造電池・磁石・ケーブル等の製造能力設備に組み込める部材にできるか
物流輸送経路、港湾、貿易制限必要な場所へ届けられるか
社会・環境許認可期間、環境影響、地域合意拡大速度を社会が受け入れられるか
地政学特定国依存度、輸出規制リスク供給途絶や価格変動に耐えられるか

代表的な定量例として、IEAのCritical Minerals関連分析では、銅・リチウム・ニッケル・コバルト・黒鉛・希土類など主要材料について、上位3精錬国の平均シェアが2024年に約86%に達したと整理されている。また、IEA “Global Critical Minerals Outlook 2025” では、中国が分析対象20種類中19種類の戦略鉱物で主要精錬国であり、平均で約70%のシェアを持つとされる。銅についても、電力網・電動化・再エネ設備の拡大に伴い、供給拡大と多様化が重要な論点になる。

このように、重要鉱物制約は「鉱物が地球上に存在するか」だけの問題ではない。たとえ資源量があっても、採掘、精錬、製造、輸送、地域合意、地政学リスクのいずれかが詰まれば、低炭素電源の拡大速度は制約される。したがって、電力予算を考える際には、CO₂だけでなく、供給網の集中度や処理能力も重要な制約として扱う必要がある。

なお、これらの数値は重要鉱物市場全体の代表的な傾向を示すものであり、個別鉱物ごとに状況は大きく異なる。リチウム、銅、ニッケル、コバルト、黒鉛、希土類では、採掘国、精錬国、用途、代替可能性が異なるため、単純に同列には扱えない。本稿では、供給制約の構造を把握するための代表例として用いる。出典:IEA Critical Minerals topic page、IEA “Global Critical Minerals Outlook 2024″、IEA “Global Critical Minerals Outlook 2025″。

7.重要鉱物制約と他の制約との相互関係

重要鉱物制約は単独で存在するわけではない。CO₂制約、送電網制約、蓄電制約と相互に関係している。

たとえば、再エネ拡大を急速に進めると、蓄電池需要と送電網需要が同時に増加し、リチウム・コバルト・銅の需要が重なる。蓄電池の素材調達が遅れると、調整力確保の計画に影響し、変動電源の系統統合が難しくなる可能性がある。また、精錬工程のCO₂が高い地域で素材を調達すると、LCA CO₂が上昇し、CO₂削減の効果が薄れることがある。

電力予算の視点では、こうした相互関係を踏まえて、CO₂制約と資源制約を同時に評価することが重要である。

8.今後の展開

次回は、低炭素電源を実際に使える電力として届けるために必要となる、送電網、蓄電、調整力の制約を整理する。

次回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第6回:送電網・蓄電・調整力制約

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