前回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第3回:発電方式別の排熱比較
1.ライフサイクルCO₂比較
同じ電力を供給する場合でも、発電方式によってCO₂の発生源は異なる。第4回では、運転時CO₂とライフサイクルCO₂の両方を比較し、電力予算におけるCO₂の位置付けを整理する。
2.このセクションの問い
電力源を比較するとき、運転時のCO₂と設備の製造・廃棄までを含めたライフサイクルCO₂のどちらを重視すべきか。
3.暫定結論
発電方式ごとに、運転時CO₂と製造時CO₂の比率が異なる。再エネや原子力では設備のライフサイクルに伴うCO₂が重要であり、火力では運転時CO₂が支配的になる。
4.なぜLCA CO₂が重要なのか
「電力予算」の枠組みでは、CO₂予算を長期的に扱うことが重要である。運転時CO₂が少ない電源でも、設備の製造・建設・廃棄に伴うCO₂を無視すると、持続可能性の評価が偏る。
太陽光・風力・原子力は、運転時CO₂が小さいため低炭素とされる。一方で、設備の製造や材料調達、解体時のリサイクルまで含めると、運転時CO₂だけでは見えない排出が存在する。ただし、LCA CO₂を含めても、一般に化石燃料を燃焼する電源と、再エネ・原子力のような低炭素電源では、排出の構造と規模が大きく異なる。
なお、LCA CO₂係数は発電方式ごとに一意に決まる値ではない。地域、技術世代、設備利用率、製造時の電源構成、燃料調達条件、輸送・廃棄の扱い、算定範囲によって変動する。本稿では、これらの値を代表的な参考値として扱い、発電方式間の傾向を把握するために用いる。
5.発電方式別のLCA CO₂の特徴
- 石炭火力・LNG火力
- 運転時CO₂が大きく、燃料消費に伴う排出が長期的なCO₂予算を圧迫する。
- 設備製造・建設のCO₂は比較的小さいが、燃料供給チェーン全体を含めると総負荷はさらに大きくなる。
- 原子力
- 運転時CO₂は低いが、燃料加工、設備建設、廃棄物管理などの工程でCO₂が発生する。
- 長い運転期間が取れる場合、設備製造時のCO₂を年間平均で薄めることができる。
- 太陽光・風力
- 運転時CO₂は非常に低いが、パネルやタービンの製造・輸送・据付に伴うCO₂が存在する。
- 設備の寿命やリサイクル率が、ライフサイクルCO₂に大きく影響する。
6.LCA CO₂係数はどのくらい違うのか
発電方式ごとのLCA CO₂係数の差は、定性的な説明だけでは把握しにくい。代表値を並べて倍率で比較することで、その差の大きさが直感しやすくなる。
| 発電方式 | LCA CO₂係数の代表値 | 石炭火力との比較 |
| 石炭火力 | 約820 gCO₂e/kWh | 1.0倍 |
| 天然ガス複合火力 | 約490 gCO₂e/kWh | 約0.60倍 |
| 太陽光PV | 約48 gCO₂e/kWh | 約1/17 |
| 陸上風力 | 約11 gCO₂e/kWh | 約1/75 |
| 原子力 | 約12 gCO₂e/kWh | 約1/68 |
代表値で比較すると、石炭火力のLCA CO₂係数は太陽光PVの約17倍、陸上風力の約75倍、原子力の約68倍に相当する。天然ガス複合火力も石炭火力よりは低いが、太陽光PVと比べると約10倍の水準になる。つまり、同じ電力量を供給する場合でも、発電方式によってLCA CO₂の桁が大きく変わる。
なお、これらの値は IPCC AR5 WG3 Annex III, Table A.III.2(2014)で整理されたライフサイクル温室効果ガス排出量の中央値に基づく代表値・参考値であり、地域、技術世代、設備利用率、燃料調達、製造時の電源構成、算定範囲によって変動する。IPCC AR6 は残余炭素予算や排出削減経路を更新しているが、この表と同じ形式で電源別LCA係数を全面更新するものではないため、本稿では比較の基準としてAR5 Annex IIIの代表値を用いる。第10回では、これらの係数を用いた年間CO₂排出量の一次試算を行う。
7.何を比較すべきか
LCA CO₂の比較では、次の視点を押さえておく必要がある。
- 運転時CO₂と設備製造時CO₂の比率
- 設備の寿命と稼働率
- 重要鉱物や資源供給チェーンのCO₂
- 送電・蓄電・調整力を含めた間接的CO₂
8.今後の展開
次回以降は、LCA CO₂の観点を具体的な試算に落とし込み、発電方式ごとのCO₂予算をどのように評価できるかを検討していく。加えて、送電網や蓄電・調整力の制約も同時に整理する予定である。