前回:【人類はどれだけの電力を持続的に使えるのか】第10回:発電方式別CO₂/LCA CO₂の数値試算
— 同じ21,900TWh/年でも、電源構成で排出量は約8倍変わる —
第10回では、同じ21,900TWh/年の電力を単一の発電方式で供給した場合、発電方式によって年間LCA CO₂e排出量が最大約75倍変わることを確認した。第11回では、より現実に近い見方として、複数の発電方式を組み合わせた電源ミックスを設定し、加重平均LCA CO₂係数と年間LCA CO₂e排出量を比較する。ここではCO₂予算との照合にはまだ踏み込まず、電源構成の違いが年間排出量をどの程度変えるかに集中する。
1.このセクションの問い
同じ21,900TWh/年の電力を供給するとして、電源ミックスを変えると、加重平均LCA CO₂係数と年間LCA CO₂e排出量はどの程度変わるのか。
2.暫定結論
4つの単純化した電源ミックスシナリオで比較すると、化石燃料中心のシナリオAは約14.82GtCO₂e/年、低炭素中心のシナリオCは約1.86GtCO₂e/年となり、年間排出量には約8.0倍の差が生じる。つまり、同じ電力量でも、電源構成によってLCA CO₂e排出量のスケールは大きく変わる。ただし、これは代表値による一次試算であり、現実の実現可能性は設備利用率、送電網、蓄電、重要鉱物、社会受容性とあわせて評価する必要がある。
3.試算の前提
- 年間電力量: 21,900TWh/年
- 対象: 第9回の主ケースで得られた年間電力量
- LCA CO₂係数: 第10回と同じ IPCC 2014 / AR5 WG3 Annex III, Table A.III.2 由来の代表値
- 再エネ代表値: 本稿では粗算化のため太陽光PV 48 gCO₂e/kWh を用いる
- 実際の再エネミックスは太陽光、陸上風力、洋上風力、水力などの比率で変わる
- CO₂予算との照合は第12回で扱う
- 本稿では送電損失、蓄電ロス、設備利用率の差は反映しない
4.電源ミックスシナリオ
| シナリオ | 石炭 | 天然ガス | 再エネ | 原子力 | 位置づけ |
| A | 70% | 20% | 10% | 0% | 化石燃料中心 |
| B | 30% | 30% | 40% | 0% | 化石燃料・再エネ混合 |
| C | 0% | 10% | 70% | 20% | 低炭素中心 |
| D | 0% | 20% | 50% | 30% | 再エネ・原子力・天然ガス調整力の組み合わせ |
5.加重平均LCA CO₂係数の計算方法
各シナリオの加重平均LCA CO₂係数は次の式で求める。
\(EF_{mix} = \sum_{i}(s_i \times EF_i)\)
年間LCA CO₂e排出量は次の式で求める。
\(\text{Emissions} = 21{,}900\,\text{TWh} \times EF_{mix} / 1{,}000{,}000\)
たとえばシナリオBの場合:
\(EF_{B} = 0.3 \times 820 + 0.3 \times 490 + 0.4 \times 48 = 412.2\,\text{gCO₂e/kWh}\)
6.電源ミックス別LCA CO₂e試算
| シナリオ | 石炭 | 天然ガス | 再エネ | 原子力 | 加重平均EF | 年間LCA CO₂e排出量 |
| A | 70% | 20% | 10% | 0% | 676.8 gCO₂e/kWh | 約14.82 GtCO₂e/年 |
| B | 30% | 30% | 40% | 0% | 412.2 gCO₂e/kWh | 約9.03 GtCO₂e/年 |
| C | 0% | 10% | 70% | 20% | 85.0 gCO₂e/kWh | 約1.86 GtCO₂e/年 |
| D | 0% | 20% | 50% | 30% | 125.6 gCO₂e/kWh | 約2.75 GtCO₂e/年 |
7.この試算が示すこと
同じ21,900TWh/年という電力量のもとで、電源ミックスを変えるだけで年間LCA CO₂e排出量は大きく変わる。
- シナリオAはシナリオCの****約8.0倍****(14.82 ÷ 1.86)
- シナリオAはシナリオDの****約5.4倍****(14.82 ÷ 2.75)
- シナリオBはシナリオCの****約4.9倍****(9.03 ÷ 1.86)
- シナリオDはシナリオCの****約1.5倍****(2.75 ÷ 1.86)
単一電源比較(第10回:最大約75倍)ほど極端ではないが、現実的な電源ミックスの範囲においても数倍〜約8倍の差が生じる。電源ミックスの選択はCO₂排出量のスケールを決定する前段階の要因であり、第12回ではこの年間LCA CO₂e排出量をCO₂予算と照合する。
8.何を意味しないか
- これは最適な電源ミックスを決めるものではない
- 各シナリオの実現可能性を保証するものではない
- 再エネ、原子力、化石燃料の優劣を単純に断定するものではない
- 送電網、蓄電、重要鉱物、土地利用、社会受容性の制約は別途評価が必要
- CO₂予算の消費年数は第12回で扱う
9.注意事項
本稿の電源ミックスは、電源構成の違いによるLCA CO₂e排出量のスケール差を見るための単純化シナリオである。実際の電力システムでは、設備利用率、出力変動、需給調整、送電損失、蓄電ロス、バックアップ電源、地域ごとの電源構成、政策制約によって結果は変わる。
係数はIPCC 2014 / AR5 WG3 Annex III, Table A.III.2 由来の代表値であり、最新設備や地域別条件を反映した固定値ではない。
10.今後の展開
次回は、第11回で得られた各シナリオの年間LCA CO₂e排出量を、複数のCO₂予算ケースと照合し、この規模の電力利用がCO₂予算を何年で消費する規模に相当するかを確認する。