すべての位置情報技術を体系的に理解するための書
このたび、位置情報技術の包括的解説書『測位学 第1巻 基礎・技術編』『測位学 第2巻 実用・発展・総括編』を執筆し、2026年2月1日何とか発刊することができました。
ITQ Books(ITクオリティ株式会社のオンライン書店)とAmazon KDPにて発売中です。
この本はどんな本?
位置情報システムの開発や運用に携わると、「どの位置情報技術を使えばいいかな?」という状況に直面することがあります。
GPS(GNSS)は屋内で使えない。Wi-Fi測位は精度が不安定。IMU(慣性航法)はドリフトする。SLAM は計算コストが高い。そういった制約のなかから最適な技術を選択するわけです。
各技術を個別に解説した書籍や論文は数多くあります。しかし、すべての測位技術を横断的に比較し、体系的に整理した文献を探しても、国内外を問わずほとんど見つかりませんでした。
長年、測位技術に関わってきた立場からすれば、この技術を横断する本があるといいのではないかと思いました。そんなところから、本書の執筆は始まりました。
本書の特徴
本書では、測位技術を2階層に分割して考えています。
第一層は、シームレス測位(工学的課題)です。さまざまな測位技術をもちいて、屋内から屋外、そして宇宙空間までシームレスに自分の位置を測定する技術です。
第二層は、意味的測位(認知科学的課題)です。工学的な絶対位置だけでは人間にとっての位置は意味のない数字でしかなく、人間がどのように位置を認知できるかという課題について整理しています。
また、実際に測位技術を使う際には、平常時/事故時、地図あり/地図なし、といった条件により使う技術が変わってくる可能性があります。これを「4象限フレームワーク」と名付けて、それぞれの象限でどのように技術を使うかを検討しています。
さらに、それぞれの技術が革新的に発展した際にボトルネックが解消されることで次なるボトルネックが明らかになるように、その技術の精度が100倍になったらどうなるか、という「100倍シナリオ」という思考実験をおこなって、そのボトルネックは解決する価値があるかを評価する、という手法を導入してみました。
これらを用いる事で、研究開発から、災害対応などBCPでの測位技術の評価まで幅広く使うことができるようになります。
そして、最終的には、先に述べたように、「位置ってなんだ?」まで突き詰めています。
第1巻の内容:基礎・技術編(414ページ)
第1巻では、測位技術の概念的基盤と6つの主要技術の原理・実装を解説しています。
第Ⅰ部:基礎編
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第1章 序論:
位置情報の社会的・経済的インパクト。GPS産業の経済規模(米国で年間1.4兆ドル)、日本の位置情報サービス市場の成長(2020年2.4兆円→2025年5.2兆円見込み)など、具体的なデータとともに測位技術の重要性を示します。 -
第2章 センシングとしての測位:
位置情報を「空間認識のためのセンシング技術」として再定義。時空間の本質、センサーとしての測位システム、意味的測位への拡張など、概念的な基盤を確立します。 -
第3章 測量の基礎:
座標系、基準点、誤差理論といった数学的基礎。楕円体高・ジオイド高の関係、測地系の変遷など、すべての測位技術に共通する理論的土台を築きます。
第Ⅱ部:技術編
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第4章 衛星測位(GNSS):
GPS、GLONASS、Galileo、BeiDou、みちびき(QZSS)の原理と実装。DOP、マルチパス、RTKとPPPの違い、環境別の精度特性を詳述します。 -
第5章 慣性航法とデッドレコニング:
IMUによる測位の原理、ZUPTによる誤差補正、GNSS/INS統合システムの3つの結合方式を、カルマンフィルタの実装とともに解説します。 -
第6章 電波測位:
Wi-Fi、Bluetooth、UWB、5Gといった無線技術による屋内測位。TOA、RTT、TDOA、AOAといった測位方式の比較、電波指紋技術の詳細を扱います。 -
第7章 SLAM:
地図と測位の同時実行という革新的技術。Visual SLAM、LiDAR SLAM、ループクロージャ、Graph-based SLAMの原理から、ORB-SLAM3などの最新実装まで網羅します。 -
第8章 リモートセンシング:
測位技術を支える「眼」としての役割。光学センサー、SAR/InSAR、ハイパースペクトルセンサー、LiDAR、衛星画像の測位への統合方法を解説します。 -
第9章 宇宙測地:
VLBI、SLR、GNSSによる基準座標系の構築と維持。さらに、パルサー航法(XNAV)という、宇宙探査における自律測位の最先端技術を詳述します。 -
第10章 技術編のまとめ:
6つの技術を横断的に整理し、技術選択のための評価軸を提示します。
第2巻の内容:実用・発展・総括編(402ページ)
第2巻では、「どのような状況でどの技術を選ぶべきか」という実務的な判断力を身につけます。
第Ⅲ部:実用編——4象限フレームワーク
「地震で通信インフラが断絶した。建物倒壊で地図が使えない。GPSも機能しない。この極限状態で、どうやって測位するのか?」
東日本大震災、熊本地震、そして各地の災害現場で直面する、この切実な問いへの答えを、4象限フレームワークで切り分けます。
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第12章「平常時×地図あり」:
RTK-GNSSとIMUの統合による自動運転(精度±2-5cm)、超高精度GNSS測量(精度±1mm)、Wi-Fi RTTとIMUの融合による屋内測位(精度±1-3m)など、最適化された環境での技術スタックを具体的に解説します。 -
第13章「緊急時×地図あり」:
東日本大震災、熊本地震、火災救助などの実例をもとに、差分更新による地図修正、可搬型基地局の展開、IMU+LiDAR SLAMによる建物被害評価など、実践的な解決策を提示します。 -
第14章「平常時×地図なし」:
LiDAR SLAM(森林バイオマス調査、精度±5-10cm)、UWB+IMU(地下廃坑調査、精度±10-30cm)、Visual SLAM(建物内部測量、精度±1-5cm)など、地図なし環境での技術統合を扱います。 -
第15章「緊急時×地図なし」:
消防活動での建物内火災対応、山岳遭難救助、地震災害での瓦礫内救助、地下空間の緊急対応、CBRN災害、GPS拒否環境など、極限フェーズでの測位技術を詳述します。IMU+UWBタグによる隊員間相互測距、環境フィンガープリント、協調測位といった、最先端の技術的・運用的解決策を示します。 -
第16章「ケーススタディ」:
消防・救助、物流・工場自動化、医療・介護、野生動物追跡といった分野別の具体的な応用事例を詳述します。
第Ⅳ部:発展編——測位技術の限界と未来
測位技術の根本的な限界と未来への展望を扱います。
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第18章「技術的限界と100倍シナリオ」:
光速による制約(精度±1cm=30ps)や量子力学的不確定性といった物理的限界を議論した後、「100倍シナリオ」による質的転換の可能性を探ります。GNSS精度が100倍(±1cm→±0.1mm)、SLAM処理速度が100倍(30fps→3000fps)、通信帯域が100倍(1Gbps→100Gbps)になったとき、何が変わるのか──技術の限界を超えた思考実験です。 -
第19章「宇宙的スケールでの測位」:
太陽系を超えた恒星間スケールでの測位という思考実験を通じて、測位概念の根本的な再考察を行います。遠い宇宙空間にはGNSSの衛星は飛んでいません。そんな空間での位置とは何かを考えます。光速遅延、相対論的効果、動的座標系管理など、SF的でありながら物理学的に厳密な議論を展開します。 -
第20章「測位の哲学的再定義」:
座標から意味への拡張という、測位の本質的な意味を問い直します。「測位=センシング」という階層的理解、意味的座標系の提案、測位の未来形態(予測的測位、協調的測位、適応的測位)など、単なる技術解説を超えた、測位の哲学的考察を提示します。
第Ⅴ部:総括編
本書の整理枠組みの意義(学術的・実務的・社会的貢献)を評価し、今後の研究課題(プライバシー保護、安全保障、量子技術など)を示します。第24章「結論」で、本書の中心的メッセージ「測位は技術であり、同時に人間と空間をつなぐ営みである」に至ります。
本書で伝えたかったこと
本書で、最も伝えたかったのは、測位技術の「全体像」を理解することの重要性です。
個別の技術を深く理解することは、もちろん大切です。しかし、すべての技術を俯瞰し、それらの関係性や使い分けを理解することは、「技術を選ぶ力」を育てることに繋がります。
GPS が使えない屋内では Wi-Fi 測位や UWB を使う。それでも不十分なら SLAM を組み合わせる。災害現場では IMU とLiDAR SLAM で自己位置推定しながら地図を更新する──。
こうした判断は、個別の技術知識だけではなかなか難しいです。技術の全体像を理解し、それぞれの特性(強みと弱み、適用範囲と限界)を把握して初めて、状況に応じた最適な選択が可能になってきます。
また、測位技術は単なる「座標を得る手段」ではなく、人間が空間を認識し、空間と関わるための根本的な営みであるという視点も大切にしました。第2巻の哲学的考察では、この視点を深く掘り下げています。
おわりに
本書は、総ページ数816ページ(第1巻414ページ、第2巻402ページ)という大部な書籍です。執筆には膨大な時間と労力を費やしましたが、測位技術の全体像を体系的に理解するための、初の包括的教科書として送り出せたことは大変嬉しく思います。
自動運転、ドローン、IoT、スマート物流、精密農業、災害対応──測位技術は、これからの社会を支える基盤技術です。本書が、測位技術に携わるすべての方々にとって、実務の指針となり、研究の足がかりとなり、そして技術への深い理解への扉となることを願っています。
測位技術の全体像を体系的に学ぶ旅を、本書とともに始めていただけたら幸甚です。
ITクオリティ株式会社では、位置情報技術を活用したスマホアプリITQ GNSS Loggerを開発しています。ぜひご利用ください
ITQ GNSS Logger - Apps on Google Play Visualize and log raw GPS data on a map. This app, developed play.google.com
ITQ GNSS Loggerアプリ - App Store ITクオリティ株式会社の「ITQ GNSS Logger」をApp Storeでダウンロードしてください。スクリ apps.apple.com
ご購入について
『測位学』は以下よりお求めいただけます。
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著者:市原明彦(ITクオリティ株式会社)
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