経営の意思を言語化し、現場と共有することが最大の成功要因
1. 導入:システム開発を「成功」に導くには
情報システムの開発は、企業にとって大きな挑戦です。一度の投資が数億円から数十億円規模にのぼることも珍しくなく、経営の命運を左右するプロジェクトになることもあります。
しかし、その成功率は決して高くありません。IPA(情報処理推進機構)の調査や、海外で有名なCHAOSレポートによれば、大規模システム開発の半数以上が「失敗」あるいは「部分的成功」にとどまっていると報告されています。失敗といっても単に赤字になったという話ではなく、予定通りに稼働しない、ユーザーが使いこなせない、経営が期待した効果が出ない──など深刻なものです。
つまり、これは一部の企業の特殊な問題ではありません。多くの企業が同じ壁にぶつかっている共通の課題なのです。
では、どうすれば「成功する側」に入れるのか。要件定義の甘さやプロジェクト管理の不備といった表層的な要因ももちろん影響しますが、そのさらに根本にあるのは──
「このシステムは何のために存在するのか」という目的が不明確であること。
ここを解決できるかどうかが、成功と失敗を分ける最大の分岐点になります。
2. 手段と目的:BA・EA・PMは優れた道具にすぎない
システム開発の現場では、数々の手法やフレームワークが導入されています。代表的なものに BA(ビジネスアナリシス)、EA(エンタープライズアーキテクチャ)、PM(プロジェクトマネジメント) があります。
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BA(ビジネスアナリシス) 経営や業務部門のニーズを聞き出し、要件として定義する。いわば「経営と現場の通訳」として機能する役割です。
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EA(エンタープライズアーキテクチャ) 全社のシステムのつながりを俯瞰し、矛盾や重複をなくす。都市計画のように「街全体の整合性」を保つ仕組みに似ています。
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PM(プロジェクトマネジメント) コスト・スケジュール・品質を管理し、プロジェクトを計画通りに進める。工事現場の現場監督のような役割です。
どれも優れた道具であり、現代のシステム開発には欠かせません。しかし、ここで強調したいのは── これらはあくまで手段であり、目的そのものではない という点です。
どれほど立派な工具を揃えても「どんな家を建てたいのか」が決まっていなければ、成果は出ません。同様に、システム開発も「何を実現するのか」という目的が定まっていなければ、BAもEAもPMも空回りしてしまいます。
3. 成功するプロジェクトの共通点
では、目的が明確かどうかが本当に成否を分けるのでしょうか。
調査データを見ても、それは明らかです。IPAの調査では「要件定義の不十分さ」「経営層の関与不足」が失敗要因の上位に挙げられています。海外のCHAOSレポートでも「要件の曖昧さ」「経営層との乖離」が失敗の主要因として繰り返し報告されています。
裏を返せば、成功しているプロジェクトは例外なく「目的が明確に言語化され、関係者で共有されている」 という共通点を持っています。
事例:ERP導入の明暗
ある企業ではERP導入にあたり、経営は「海外拠点の統制基盤」を狙っていましたが、現場は「業務効率化のツール」と理解していました。その結果、完成したシステムはどちらの期待も満たさず、巨額の投資が水泡に帰しました。
一方、別の企業では「海外拠点の統合管理」という目的を経営が明確に掲げ、それを現場と何度もディスカッションした上で要件に落とし込みました。その結果、システムは経営判断のスピードを飛躍的に高め、投資効果を生み出しました。
同じERP導入でも、成功と失敗を分けたのは「目的が共有されていたかどうか」でした。
4. 目的を曖昧にしないための視点
「目的不明確」と一口に言っても、その現れ方には大きく二つの典型パターンがあります。
暗黙の了解型(言わなくてもわかるよね)
既存システムのリプレース時に多いケースです。「今のをそのまま新しくすればいい」と思い込み、改めて目的を言語化しない。結果、旧システムの不満点はそのまま残り、「高額なお色直し」に終わってしまいます。
経営層は「なぜこれほど投資したのに変わらないのか」と不満を抱き、現場も「業務が楽になっていない」と失望する。こうしたすれ違いは暗黙の了解に頼ったがゆえに生じるのです。
齟齬・分裂型(新規事業の迷走)
新規事業やDXプロジェクトで顕在化するのがこのパターンです。経営層は「新たな収益の柱を作る」ことを期待する一方、事業部は「目の前の業務効率化」や「短期的売上の拡大」を重視する。その齟齬が解消されないままシステム開発が進み、完成したときには誰の期待も満たさない中途半端なシステムが出来上がってしまいます。
結果は、経営からも現場からも不満が噴出し、投資対効果は出ない──。典型的な迷走のパターンです。

5. 成功に導く3つのステップ
それでは、成功するプロジェクトはどのように「目的」を扱っているのでしょうか。ポイントはシンプルで、次の3つです。
ステップ1:目的を言語化する
「このシステムは何のために存在するのか」を一文で言えるようにする。「顧客接点を強化するため」「経営判断を迅速化するため」「業務コストを20%削減するため」など、測れる形に落とすことが重要です。
ステップ2:経営層がプロジェクトオーナーとして関与する
ここが最重要ポイントです。システム開発は経営の意思を形にする営みであり、プロジェクトのオーナーは経営層です。オーナーシップには責任が伴います。つまり、失敗した時の責任も経営層にあるということです。
「現場に任せればどうにかなる」と距離を取る経営では、ほぼ確実に失敗します。なぜなら、権限だけ現場に委譲して責任は現場に押し付ける構造では、現場は経営の真意を推測するしかなく、結果的に経営の期待とは違うものが出来上がるからです。
経営が明確に旗を振り、方向性を示し、必要な意思決定を下す。その姿勢が現場を動かし、プロジェクトを前進させます。
また、現場サイドも受け身でいてはいけません。「経営が旗を振ってくれない」と嘆くのではなく、経営者のタイプや企業文化によってアプローチは異なりますが、「我々は何を実現すべきなのか」と積極的に問いかけ、経営に関与を促すこと。経営と現場が対話を繰り返すことで、目的はより強固になります。
ステップ3:道具を正しく使う
目的が明確になったところで初めて、BA・EA・PMといった手法が効果を発揮します。
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BAは、経営の意思を現場の要件に翻訳する。
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EAは、企業全体のシステムに一貫性を与える。
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PMは、合意された目的を現実の成果に落とし込む。
目的がないままでは道具は空回りします。逆に、明確な目的と経営の関与があれば、これらの道具はプロジェクトを成功へと導く強力な武器になります。

6. まとめ・読者への問いかけ
情報システム開発を成功させる最大の要因は、手法の巧拙ではありません。「目的の明確化と共有」こそがすべての土台です。
既存システムのリプレースでは「暗黙の了解」を排し、新規事業やDXでは「経営と現場の齟齬」を解消する。そのために経営層はプロジェクトオーナーとして旗を振り、現場は受け身にならず経営に問いかけを行う。両者が対話しながら同じゴールを描いたとき、システムは企業戦略を実現する強力な武器に変わります。
最後に、あなたに問いかけます。
👉 あなたの会社の次のシステム開発、その目的は一文で言えますか? 👉 そして、その目的を経営層と現場が同じ言葉で共有できていますか?
